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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)8966号 判決

中ノ郷信用組合

理由

一  原告の主張の1、2、および被告が昭和四九年六月二一日に原告に対し相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二  原告は相殺の自働債権は約束手形裏書人に対する遡及権で一年の消滅時効に服するとし原告の主張4のとおり主張するのに対し、被告は右の自働債権は合意に基づき発生した約束手形買戻請求権で五年の消滅時効に服するとして被告の主張3、4のとおり主張する。

1  《証拠》によれば、昭和四五年六月二三日、原告が被告との間で手形貸付・手形割引等に関する取引の約定をした際、被告の主張の3(1)の合意をしたこと、被告は、この合意に基づき発生した原告主張2の約束手形四通の買戻請求権を自働債権とし、同主張1の預金債権を受働債権として、原告に対し相殺の意思表示をした事実を認めることができる。《証拠》中、右認定に反する部分は、前掲各証拠と対比して採用することができない。

なお、原告は、その主張の3に記載のとおり、相殺の自働債権は前記約束手形四通についての遡及権(所持人被告の裏書人原告に対する遡及権)である旨主張するけれども、自働債権が前記認定のとおり約束手形の買戻請求権であることは、《証拠》に徴し明らかである。

2  ところで、この買戻請求権が乙第一号証(取引約定書)の合意に基づき発生したものであることは前記認定のとおりであつて、商行為により生じた債権であることは明らかであるから、この請求権が商法五二二条により五年の消滅時効に服することはいうまでもない。

3  原告はその主張の6のとおり主張するけれども、乙一号証の記載を素直に読めば、同号証は割引手形が不渡になつた場合に、被告が手形の買戻請求権を取得する旨の合意を記載したものであることが明らかである。また、約束手形の振出人が支払を拒絶した場合には、手形法上、手形所持人は手形裏書人に対し遡及権を取得するが、これと別に、手形裏書(手形割引)の原因関係に基づき一定の場合に手形買戻請求権の発生を認めることは、前者が手形関係から発生する権利であるのに対し後者が手形の原因関係から発生する権利であることに徴し、許されることはいうまでもない。そして、別個に発生した右二個の権利がそれぞれの法規の定めるところにより、消滅時効の期間を異にすることは当然のことであるから、前記原告の主張の4は失当である。

三  以上のとおりであつて、自働債権である原告主張2の約束手形四通の買戻請求権は、同2の(1)ないし(4)記載の各支払期日から五年間は時効により消滅しないことが明らかである。

してみれば相殺の意思表示がなされた昭和四九年六月二一日当時、相殺の自働債権がすでに消滅していたことを理由に、右の相殺が無効である旨の原告の主張は失当である。

四  被告主張の買戻請求権を自働債権とし、原告主張1の預金債権を受働債権として、昭和四九年六月二一日に相殺の意思表示がなされたことは前記のとおりである。

この事実によれば、右の相殺により、前記各債権は対当額で消滅し、受働債権は金五一五円の範囲において残存することが、計数上明らかである。そして、《証拠》によれば、前記預金債権の満期後の利息は年三分二厘五毛であること、この利息は金一〇〇円未満の端数の元金に対しては附されないことが認められる。

五  以上の事実によれば、原告の本訴請求は、金五一五円と内金五〇〇円に対する満期後以後である昭和四九年六月二三日から完済まで年三分二厘五毛の割合による利息の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却

(裁判官 栗山忍)

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